今回は予告した通り、バックアップにまつわる私の苦い体験をお話しします。はっきり言って情けない話です。はは…

でも、もうずいぶん昔の話ですし、私もそのころよりは成長しています。なので「もう時効だよね?」という思いでお話しをします。

また、まだ未熟だった私がやらかしてしまった失敗を忘れないように。という思いもあります。
人は時間が経つとどんなに苦しい思いも忘れてしまいますから…たまには思い出した方がよいこともあるんですね。

■むか~しむかし…

昔々(10年くらい)私はとある建築現場に、図面屋さんとして通っていました。当時のオートキャド(AutoCAD)はR12Jで、オートキャド(AutoCAD)-LTという価格を抑えたタイプがちょうど発売された頃ですね。

その建物は埋め立て地に建設中でしたから、当然私も毎日バスで埋め立て地に通っていた訳です。

埋め立て地には倉庫が多く、倉庫では色々な国の人たちが働いていました。…と、そこまでは良いのですが、彼らの中には時々乱暴な方々がいて、下手をするとバスの中で喧嘩が始まってしまう始末です。

おいおい…。

お世辞にも「楽しく通勤しています」とは言えない状況で、毎日色々と勉強をしながら働いていた訳です。今となっては笑い話でしかありませんが、当時は体力的にも精神的にもキツかった事を記憶しています。

規模の大きな現場だったので、ゼネコンは2グループ入っていました。グループというからにはJV(ジョイントベンチャー)ですね。

最大手のスーパーゼネコンが各グループの頭となり、その下に何社かが入るという形です。

その2グループは全くの別団体ですから、施工範囲を決めた後は基本的に別々の動きをする訳です。ただしそれでは効率が良くないということで、2グループ間でネットワークを組むことになりました。

このネットワークの狙いは、(お互い建物の形が似ていた為)図面データを出来るだけ共有しましょうという所にあったのですが、お金の出所が異なるグループ同士でデータの共有はなかなか難しいのが現状です。

先に図面を描いた方が、そのデータを相手に利用されるんです。だから後の方が楽なんですね。でも、そんな関係って普通はありえないです。

皆がそう思っていたので、このネットワークが形式的な存在となるまでそう時間はかかりませんでした。それでもネットワークの存在自体はなくすことが出来ません。

なぜならスーパーゼネコンと呼ばれる巨大な企業が「ネットワークを組むんです」と言って、既に始めてしまったからです。今さら後には引けません。

時々「こんな成果がありました」というような(見せかけの)資料も作りつつ、というような感じです。
大きい組織って難しいな…と思ったりして。

いち図面屋としては全然関係のない話ですけど、まあそれなりに便利だったので、私はその形式的なネットワークを使い続けることにしました。

他に使う人がほとんどいなかった為、はっきり言って私が一人で使っているような状況でしたが…。

このネットワークを構築する為にはきっと莫大な費用がかかっていたハズですが、使用者は私一人という、なんとも贅沢な使い方をしていた訳ですね。

■ある日突然…

そして、作図も終盤に入ってきた頃、事件は起こります。ある朝出勤してきて図面を開こうとすると、ネットワークドライブにアクセスが出来なくなっていました。

それまでもちょくちょく不具合が発生したりしてアクセスできないことがあったので、その時も「またか…まったく」という軽い気持ちでした。

でも、今回はなかなか復旧しません。2日たった時点でさすがにおかしいと思い、ネットワーク管理者に電話をかけてみると、なにやらただごとではない様子です。

ネットワーク管理者の遠回しな表現を訳すと、要するに「ハードディスクが壊れて中のデータは戻らないかも知れない」ということでした。

そして最後に一言「でもバックアップは取られていると思いますから、大丈夫ですよね?」と。
うーん…そうか。

こういう時の為にバックアップが必要なんだ。でも、今さらそんなことを思っても、もう遅いです。消えてしまったデータはもう戻っては来ないんです。

■事後処理に追われる

それから何日かは非常に嫌な日々でした。手元にバックアップがないので、今まで人に渡したデータを取り戻したり、その他色々な手段でとにかくデータを掻き集めました。

多大な手間とお金を消費しましたが、結局全てのデータを元に戻すことは出来ず、失ったデータはかなりの量になりました。正直言ってシャレにならない状態です。

でも、幸いなことに(?)当時の私はそれほど責任感が強くなかったので、なんとかなりました。もうどうでもいいや、という心境に達したんですね。

それからはなくなった図面を描き直すこともせず、「○○図を印刷して」と言われても「データがなくなったので無理です」とあっさり答えるダメっぷりで乗り切りました。

今考えると恥ずかしいですが、多分もうそうするしか手段がなかったのだと思います。膨大な損失に対して責任をとれる訳でもないですし、時間的にも描き直しは不可能でしたから。

最終的にはスーパーゼネコンのネットワーク管理者が謝罪に来たのですが、やはりそこでもバックアップの話が出る訳です。普通はバックアップを取るんですけど…という感じで。

何となく私にも責任の一端があるかのような雰囲気で、非常に不愉快な思いをしたのと同時に、データのバックアップについては今後必ずとるようにしようと心に誓いました。

やはり今では、データの管理者である私がバックアップをとるべきだったと思います。他力本願はプロとして恥ずべき事だと。そう肝に銘じました。

そしてそれ以来、私はオートキャド(AutoCAD)のデータを本当にしっかりと管理するようになりました。…とさ。

パソコンのハードディスクなんて壊れる時は簡単に壊れます。そこには前兆なんてありません。

そして、いつか必ず来るハードディスクの故障に対して我々が出来ることは、定期的にバックアップをとることだけなんですね。

データがなくなった後の処理に比べれば、バックアップなんて本当にたいした手間じゃありません。昔の私と同じような目に遭わない為に、ぜひともバックアップを検討してみて頂きたいと思います。