前回はオートキャド(AutoCAD)のプロとして他社に出向した際に、寸法設定の矢印が「なし」になっていて困ったという話をしました。

矢印がないだけで、作図するのにこれほどの違和感があるのかと思うと、なんだか不思議な感じがしました。
単に慣れていないだけなのかも知れませんが、やはり作図環境には慣れが必要だということでしょう。

そして、その図面が完成した時点で、私はようやく矢印が「なし」に設定されている理由を知ることになるのです。…なんて、ちょっと大げさな言い方ですね。

■矢印追加の作業が

図面のチェックが完了し、提出用のトレーシングペーパーで印刷をした私は、直属の上司に作図完了の報告をしました。次はどんな作業をするのか、指示を貰う必要もありましたし。

ところが、今印刷した図面はこれだけでは完了ではありませんでした。まだやるべき作業が残っていると上司は言うのです。

相手は土木の設計を主に行っているプロでしたから、私の作図した図面の内容に不満があったのかも知れない。そう考えて、私は今作図した図面を目の前に持ってきました。

内容的な指摘を受けるのは、少なくとも当時の私にとっては非常に勉強になることだったので、勉強をさせて貰おうというくらいの気持でいました。

でも、次に私が耳にした言葉は、土木設計の内容とはあまりにもかけ離れたものでした。

上司「この図面、まだ矢印の作図が終わってないよね」
私「矢印…ですか?」
上司「そう、矢印」
私(矢印の設定が「なし」なら入ってるわけないし…)

その後、私は上司の指示のもと、印刷した図面に「鉛筆で」矢印をせっせと記入することになりました。

当時のプロッタはペンプロッタでしたので、印刷された図面も基本的には鉛筆がベースになります。ですから、そこに鉛筆で線を追加してもほとんど違和感がありません。

そして、その後、鉛筆が消えにくいように定着用スプレーを吹いて作業完了です。定着用スプレーというものがあることを、私はその会社で初めて知りました。

世の中には本当に様々な商品があるのだなと、当時の私はそう思いました。役に立つかどうかは別にして、仕事をしていると勉強になることが多いです。

オートキャド(AutoCAD)を使っているだけでは分からないことがたくさんあるんですね。

■矢印を作図する訳は?

確かに手描きで追記した矢印は、形状が特殊であった為、一般的な設定で作図できるものではありませんでした。

詳しくは聞きませんでしたが、最後に手描きで矢印を追加したのはそのためでしょう。ただ、作業として効率が良いかどうかはちょっと別の話ですが…

特殊な形状の矢印を使うのならば、ブロックを作成して、そのブロックを矢印として使用するというやり方があります。作業としては、その方法を採用した方が全然楽なはずです。

でも、当時はなぜか遠慮して言えませんでした。ごく当たり前に続けられているその作業を「効率が悪いです」と言うことが出来なかったんです。

今考えてみると「効率が悪いです」などとわざわざ言う必要はなくて、もう少し上手なやり方で、オートキャド(AutoCAD)を充分に活用した新しいやり方を提案することができたのではないかと思います。

今となってはもう遅いですね。

手描きで矢印を作図していくと、半分以上矢印を作図した後で、図面中に見過ごせないレベルの間違いを発見したりします。

再チェックという意味ではいいかも知れませんが、実際には印刷のやり直しですから、矢印の作図も当然やり直しになってしまいます。こんなことを何回か繰り返すと、さすがに嫌になりますね。

ただし、手描きの技術はけっこう上達しました。これは後々建築士の試験を受ける時に役立つことになります。何事にも言えると思いますが、まったく無駄なことってあまりないんですよね。

■設定を知っているか知らないか

手描きのスキルは上達したものの、それは私個人の話です。仕事という点から考えると、その作業は非常に効率の悪いものと言えるはずです。

私は途中で転職してしまいましたので、その会社がその後どうなったかを知ることは出来ませんが、そのやり方をずっと続けているのなら、きっとその会社はもう生き残っていないでしょう。

あとはいつその事実に気が付くか、ということです。気が付くかどうかと言うよりも、作業する人が「もっと楽な方法はないのか?」と感じるかどうかが問題かも知れません。

オートキャド(AutoCAD)は様々な機能をもったCADですが、使うのはあくまでも人間です。使う側の知識がないと、せっかく用意されている機能を使いこなすことができません。

使いこなせるかどうかの分かれ目は、先程も言いましたが、作図者の意識による部分が多いです。

その機能を知っているか、あるいは知らないか。
もっと便利な機能がないかを調べることができるか。

ほんのちょっとした差でしかないのですが、こうした作図者の意識が、作業の効率を大きく変えていくことになります。

2回にわたって長々と書いてきたのは、これを言いたかったからなんです。

やり方ひとつで仕事の効率は大きく変わり、そのやり方は作図者が選べます。つまり、作図者の工夫によって、作業の効率は大きく変わってくることが多い、ということですね。

また、自分よりも経験がある人の意見が必ずしも正しい訳ではない、という事実も私の話からよく分かると思います。言われたことだけを鵜呑みにしないで、自分で考える癖をつけることが大切です。